「赤い鳥の居る風景」は、高度経済成長期にある第二次世界大戦後の市民社会を背景に、誠実な生き方とは何かを問いかける作品である。謎の自殺を遂げた両親の借金を背負う決意をした盲目の姉とその弟を中心に、親子関係、それを取り巻く町の人々との接し方を
推理劇風に追いながら、人物それぞれの距離感が次第に浮き彫りになっていく。淡々と流れる対話、存在感溢れる光と陰、そして劇中に散りばめられた多くのシンボリズム。日本を代表する不条理劇作家・別役実の第13回岸田戯曲賞受賞作品をアメリカ初上演。
ストーリー全容
「盲目の女」(姉)とその「弟」を残して謎の死を遂げた両親の葬儀中に、突如、両親にお金を貸していたという「旅行者」が現れる。死因を調査していた「委員会の男」は、旅行者を尋問する。姉は、以前に旅行者が訪ねて来た日のことを思い出す。彼はお客として丁重にもてなされていたが、両親の対応はなぜかぎこちなかった。
姉弟と町の人々は、「委員会のある町」を訪れる。その町では、委員会によりカーニバルが開催され、パーティーハットを被った人々が、儀式的で滑稽な行進をしている(この作品が書かれた1960年代後半には、日本人の生活水準が大きく改善された一方で、「管理社会」への論争が始まった)。そこで、捕われの身となった旅行者から彼の孤独な過去を聴いた姉は、借金を帳消しにする代わりに結婚を申し込まれる。しかし、姉はその申し出を断り、自分たちの力で借金を返していくことを決意する。
会社勤めを始めた弟だが、社会に上手に適応でき ない。姉の前に「若い女」が現れ、弟から一緒に遠くへ逃げるよう頼まれたことを知る。そんな矢先、弟は
盗みと殺人を犯してしまう。減刑運動を計画する町の人々の善意にすがろうとする弟を姉は戒め、辛い道を歩むように諭す。しかし、刑務所から脱走した弟は撃たれ、息を引き取る。一人残された姉は、これからの生活へのある決意をする。「借金というのは、きっと返し切ることが大切なのではなく、返し続けることが大切なの・・・」。
解説 - 作品に隠された多くのシンボリズム -
この物語が何を表しているのか、定かな説はない。しかし、演出の
K.KIYAMA は、姉弟が背負う「借金」は、戦後の日本が朝鮮に対し抱える「借り」であり、姉弟は、「許し」を得るための義務に服する若い世代の象徴である、という見解を持っている。「盲目の女」の借金返済を貫き通す頑なまでの姿勢は、事なかれ主義で静かな生活を望む町の人々にとって
危険な赤いシグナルであり、彼女自身が 「赤い鳥」に他ならない。「委員会」は、繁栄の代価として理念が欠落した社会を、「旅行者」にぎこちなく接する「両親」は、戦争に加担した自責の念を抱えながら戦後の民主主義社会で生きる日本人を表している。当作品は、昨年の「日韓友情年2005」の祝賀イベントとして、ソウルで上演された。この時、演劇評論家の七字英輔氏は次のように述べている。「戦時中に徴用され、虐待された朝鮮人に対し、日本人はまだ充分に責任を取っていない、という作者(別役実)の苦い思いがあろう。(中略)別役は実に40年近くも前に予言していたのだ、ということを改めて知った。(演出家・プロデューサーの)木山氏が『この作品で韓国公演を』というのが腑に落ちた瞬間だった」。
別役実 - 日本を代表する不条理劇作家 -
別役実は、戦後日本の
現代演劇 を支えた前衛芝居の先駆者である。1967年、「マッチ売りの少女」と「赤い鳥の居る風景」で第13回岸田國士戯曲賞を29歳という若さで受賞。以来、
他の追随を許さない対話術とユーモアのセンスで、 現代社会のシステムを鋭く批評する。60年代、三島由紀夫が政治的極右として有名である一方、極左として位置づけられたのが別役であった。若い時にイヨネスコやべケットから多大なる影響を受けた別役実は、現在の日本を代表する不条理劇作家であり、また日本演劇のクオリティを保ち続けてきた中核的存在である。
演出家・ K. KIYAMA - 初演出で東京、ソウル、ニューヨーク公演
-
木山事務所の代表であり、別役実の作品を数多くプロデュースしてきた木山潔が、
K.KIYAMA の名前で2004年3月に演出家デビューしたのが、この「赤い鳥の居る風景」である。別役の世界を斬新な演出で読み解き、05年12月ソウル公演
にて大絶賛を受ける。NY 公演の直前である06年9月に東京の新国立劇場にて、同公演を行う。
K.KIYAMA からのコメント:「現代の観客が、60年代の『政治の季節』の時代に書かれたこの作品にどのような感触を持つか、興味深い。初期の作品だけに、作者の時代や状況への批判が生更で鋭い。それを平和な時代に生きる若い観客が、自分への切実な問いかけとして受け止めてほしい」
木山事務所 - 過去2回、ニューヨーク公演が成功 -
1980年に劇作家の別役実、山崎正和、演出家の末木利文、俳優の中村伸郎らの協力のもとに、演劇プロデューサーの木山潔を代表として創立。日本演劇の良質な伝統を引き継ぎながら、現代演劇の新たなリアリズムの探求を目指している。日本の代表的な劇作家の諸作品に加え、シェイクスピアやチェーホフ等の古典や欧米の現代戯曲、ミュージカルをレパートリーとして持ち、劇団制とプロデューサーシステムの併用という、日本では例のないユニークな方法で上演を続けている。文化庁芸術祭大賞、紀伊国屋演劇賞、スポーツニッポン新聞芸術大賞優秀賞など、多数の受賞歴があり、ここ数年は毎年海外公演を行っている。
ニューヨークでは、過去に2回公演を行い、様々なプレスから素晴らしい賞賛と短期公演を惜しむ声を得ている。99年1月、
The Kaye Playhouse にてミュージカル「はだしのゲン」(原作・中沢啓治、米題:「Gen
」)を上演。 広島での被爆体験を描いた自叙伝漫画の舞台化 は、大きな話題を呼んだ。ニューヨークタイムズ紙(Lawrence
Van Gelder 記者)は、次のように評している。「素晴らしい演技の俳優たち、舞台に引き込まれる観客、そして感動と恐怖をもって訴える平和への切実な願い。5ステージという短期間にも関わらず、非常に印象深い作品である」。また、同紙は「シカゴでの大雪で、セット、小道具、衣装が届かなかったにも関わらず、力強く魅力溢れるステージだった」とも綴っている。この2年前の97年には、La
MaMa’s Annex Theater にて、シェイクスピア演劇に取り組む19世紀の歌舞伎一座の四苦八苦を滑稽に描いた、「仮名手本ハムレット」(作・堤春恵)を上演。The
Village Voice (Deborah Jowitt 記者)によると、「エキサイティングな作品である。伝統芸能である歌舞伎をテーマに、理想主義と崩れ衰えるもの、不名誉とそこから学び得る教訓を描いた冷血ドラマである」。 |